■ 初診から治療開始まで
初診のご予約アポイントでは原則として治療は行いません。カウンセリングと診断のためのデータコレクションが主な仕事です。60分から90分が平均所要時間です。ただし,激しい痛みを伴ったり,前歯が脱落したなどの緊急性が認められる問題については,何をさておいても応急処置を優先します。そして,除痛後あらためて初診のご予約をいただくことになります。
ここで重要なのは,あくまで『応急処置』であるという点です。なぜならあらゆる歯科医療の目的は,痛みを取る事に終始するのではなく,大切な歯を終生使い続けることにあるのです。私たちにとって患者さんの痛みをコントロールする事は,さほど大きな問題ではありません。重要なのはその後にあるのです。もし,痛みの解消イコール治療だという認識であれば,早晩あなたの歯は徐々に失われていく事でしょう。非常に多い主訴として『銀歯が取れたのですが・・・』というのがありますが,一般的にこの問題は歯が失われていく大きな警告だとお考えになるべきです。どうやったら,問題を解決でき,それを長年にわたり良好な状態に回復できるか,まず調べなければなりません
最初に十分なデータを集めます,レントゲン写真,口腔内の衛生(デンタル・プラークの付着状況,歯石の状況)、歯周ポケットの深さ,ムシ歯の有無,噛み合わせ状況の診査,診断用スタディモデルの製作,現在治療済みの歯の品質評価などです。口腔内とそれに関する写真のデータをもとに患者さん個々のお口の状況をご理解いただくために,資料をご一緒に拝見しながらプレゼンテーションを行います。初診が終わった後にこれらの資料をもとに,診断を行い,あなたに最適化された治療プランをいくつか作成します。経済的なすり合わせや治療期間を配慮した方法であったり,中長期的な予後の安定性を最重要視した設計であったりします。2回目以降のご予約にて十分に理解していただいた上で,ご相談申し上げ,あなたが最も適切だと考えるものを選択していただきます。
■ 初期治療(initial therapy)
ここからが治療の始まりです。まず,あなたの口腔内の衛生状況のデータを元にプラークコントロールを始めます。これは,治療が終わった後も終生続ける必要があるので,歯科医師と歯科衛生士のフォローの元で厳密に管理して行う必要があります。プラークコントロールが実行出来るようになったら,スケーリング・ルートプレーニングという方法で歯石の除去を行います。歯と歯茎の目に見えない部分の歯石を丹念に取り除くもので,場合によっては麻酔も必要です。数回のアポイントが必要です。これらと並行して小さなムシ歯の充填処置,親不知や保存不可能な歯の抜歯,歯内療法(いわゆる歯の神経の治療),噛み合わせの調整,必要に応じて仮歯の製作などを行います。これらの治療は患者さんごとに大幅にメニューが異なりますので早ければ数回、長ければ数ヶ月から1年強必要になる事もあります。
ですから症例に応じて凄く幅があるという事をご理解いただく必要があります。
■ 再評価(re-evaluation)
この段階まで来ると,プラークコントロールは確立し,歯石も大部分が除去され,ムシ歯の問題もなくなり,歯の欠損は仮歯という形で再建されているので,患者さんが治療前に問題であった部分はかなり解決して,しっかりとした状況で噛めるようになっています。その上でもう一度歯周病関連の検査を行い,歯周組織の問題の解消程度を評価するのです。そしてさらに歯周病の治療が必要だと判断されれば,次の歯周外科の段階に進む事になりますし,歯周病の問題が軽傷で解決しているのなら,最終段階の補綴処置(歯を入れる事)に移行するのです。
■ 歯周外科治療(periodontal surgery)
この段階は完全に歯周病専門医の仕事になります。歯周病によって侵蝕されたあなたの歯と歯茎を取りまく環境を極小さな極めて精密な手術を施す事によって,歯周病原性細菌の感染に十分な抵抗性を持った環境を作っていくのです。それは歯周ポケットを根本的に切除するものであったり,大きく欠損してしまった歯槽骨を再生する処置であったり,歯肉の位置を最適な位置に移動する処置であったりします。これも各個人によりメニューが全く異なります。この処置も全ての歯に対して行うには3〜6回程度の手術のアポイントが必要ですので,数ヶ月から半年強くらい必要だと考えてください。最後の手術から約3ヶ月くらいはプラークコントロールを強化して経過を観察します。インプラント (Implant)を治療計画の中に組み込んだ場合もこの段階で埋入処置をする事が多いです。
この患者さんは24才の男性です。歯茎の形が気になっておられたそうです。以前受診した歯科では治療不可能と宣告されて,あきらめていたそうです。こういった症例は特に歯周病専門医でのみ正確な診断と治療をすることが可能です。